ドクダミチャレンジ

庭の雑草が伸びてきた。

 

伸びてきたというより、もう伸び放題だ。まだ大丈夫だろう、と呑気に構えているうちに春になり、気がつけば大変なことになっていた。季節もいつの間にか、夏へと片足を踏み入れている。一方の私はスタートダッシュの時点で出遅れている。

こうなってくると足取りは重い。腰も重い。草を抜くのがめんどくさい。ご近所の目が気になるのは何となくわかるがやはりめんどくさい。

 

それでも季節は待ってくれない。軽やかなステップで庭中を駆け回り、その足跡には根を深く張った立派な植物を残していく。その植物の名前はわからないものも多いが、もはや草というより小さい木なのではないかと思うほど、立派に成長しているのは見て取れる。

 

このままだと完全に置いていかれる。ジャングルのような庭に一人取り残されるのは嫌だ。

私はのろのろと歩き出した。やらないことには始まらない。日焼け止めを塗り、グリップの利く手袋をつけ、虫除けスプレーをたっぷりと吹き付ける。普段であれば、とりあえず、の気持ちで形から入るタイプの私だが、今回に限っては自分を守るために完璧な事前準備が必要となる。とりあえずなどという生半可な気持ちではいけない。

見えない鎧を身につけた私は、大股で玄関を出た。まずはすぐ左手にある生垣の裏から始める。生垣と言っても、そこまで立派なものではなく、外からも裏側がしっかりと見えてしまう。とりあえず形から入る私なので、いちばん人目に着くところから着手することにした。

 

その領域を侵食している植物のほとんどは、ドクダミとシダのような植物だった。葉をかき分け、根元を掴んで抜いていく。あんなに億劫だった草抜きもいざやってみると、ひたすら抜くだけの単純作業なのでストレス発散になりそうだ。

 

抜き始めたところで、あることに気がついた。ドクダミを抜くのがすごく楽しい。茎がしっかりしているのだろうか、抜いた際に途中で千切れることがなく、土の下に長く伸びる根がたっぷりとついてくるのだ。

ドクダミを引っ張ると、遠くの方から根がブチブチブチっと音を立てて現れてくる。根は横に伸びている傾向にあるようで、抜くだけで自然と広範囲の土が耕される。これがなかなかおもしろい。

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ドクダミの花

 

始めのうちはただ抜いて集めるを繰り返していた私だったが、途中から思いつきである挑戦をすることにした。

 

名付けて「ドクダミチャレンジ」である。

 

抜くと根がついてくると言っても、力任せに抜くと根が耐えられず、すぐに千切れてしまう。たっぷりの根をゲットするには、コツがいるのだ。

今日一日で、どこまで長い根をゲットできるか。競う相手はいないので、自分との戦いである。アスリートのように、記録を更新し続けるモチベーションを試す。

根を最後まで取りきるのは不可能に近いが、とにかく限界を目指すのだ。そう心に誓い、私は草抜きを再開した。

 

すると早速、素晴らしい個体を手に入れたので、思わず写真を撮った。

 

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個体第一号

根はほぼ直角に近い角度で曲がっていて、地中に入るとすぐ真横に伸びていたことがわかる。しかも途中で二手に分かれている。これぞ根の力強さである。ほとんどの個体は二股になる地点まで辿り着かなかったので、これはかなりレアだと思う(筆者調べ)。

 

生垣裏のドクダミをあらかた抜き終えると、今度は庭の方へ回った。ちなみにシダは根が硬く、ほとんど取ることができなかったので、適当に終わらせた。

 

庭を見て驚いた。こちらにもドクダミが生い茂っている。ついでにヨモギやよくわからない植物も生い茂っているが、ドクダミ以外に用はない。

 

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個体第二号

庭で抜いたものは別の場所に集めていたが、中でも素晴らしい個体は玄関に持ち帰り、写真を撮った。こちらは根が始まってすぐの地点で二手に分かれている。長さのアンバランスさが愛らしい。ちなみに、右上に写っているのは適当に抜いたシダの葉である。

 

 

昼過ぎになり空腹を感じたので、今日のところはこれで打ち切りとした。

見えない鎧を身にまとっていたせいか、蚊に刺されることはなかった。まだ蚊が飛んでいない可能性も高いが、何かに勝った気分だ。

ドクダミとシダを合わせると、ちょっとした山になったので、妙な満足感があった。ついでにイヤホンのイヤーピースや袋の切れ端など、よくわからないゴミも拾っておいたことで、人間としてのレベルが上がったような気がした。

 

 

しかしこのドクダミチャレンジ、またやりたいという気持ちにはならないのが不思議である。

やはり雑草を抜くのはめんどくさいのかもしれない。