雪の日の約束

バイト先の店によく買い物に来る、ガーナ人のお兄さんがいる。

 

出会った当初は日本語があまり話せず、私が英語で接客したことから、よく話しかけてくれるようになった。日本語はだんだん上達していて、今では英語をほとんど使わずともコミュニケーションが取れる。

 

今日は、そのお兄さんと初めてお茶をするはずの日だった。というのも、年明け早々、今日に限って雪が降ってしまった。とりあえず日時と集合場所を決めただけで、お兄さんの連絡先も知らないし、集合場所からは十五分ほど歩かないと飲食店にたどり着けない。どうしたものかと窓の外を見ても、雪は止むどころか薄っすらと積もり始めている。

 

雪は基本的に好きだけど、この地域ではまとまった量の雪が降ることはあまりないので、雪慣れしているわけではない。お茶はまた別の機会にした方がいいことは明らかだった。

とはいえ、それを伝えるためにはまず集合場所に行く必要がある。家からは歩いて五分くらいだけど、こういうときのために連絡先を聞いておくべきだったなあと、後悔する。お兄さんから話しかけられる時はいつも仕事中だったから、仕方ないのだけど。

 

靴箱から雪靴を引っ張り出して、マフラーと手袋を装備し、意を決して外に出る。装備のおかげで寒くはないけど、傘を差していてもだんだん身体中が雪だらけになっていく。ネイビーのウールコートに大量の雪が付着すると、悲しいほどに映える。ダウンコートを着ている人が羨ましくなった。

 

寒風に吹かれながら集合場所に着くと、お兄さんの姿が見えた。マフラーで顔が埋もれていても気付いてもらえるよう、大きく手を振る。

 

「今日、来ないかなーって、考えた。嬉しい」

 

お兄さんはほっとしたような表情で笑った。

 

 

結局、今日はこのまま雪が降り続くだろうから、お茶はまたにしようという話になった。お兄さんの連絡先を聞こうとしたら、携帯を持っていないし家にも電話がないと言うので、また日時だけを決めて別れた。

 

正直なところ私自身は、お兄さんが来なかったらどうするかの想定をしていなかった。あの人なら絶対に来るだろう、と根拠もなく考えていた。なぜなのかはわからないけど、きっとお兄さんはそういう人だから、私も約束をすっぽかすようなことはしたくないと思った。

 

ふと気になって、ガーナでも雪が降るのかどうかを調べたけど、調べるまでもなくアフリカでは滅多に雪は降らないようだった。初めて雪を見たときの気持ちってどんなだったろうか。今度温かいコーヒーを飲みながら聞いてみよう。

 

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