もう昨年の話になるが、我が家で「パッチョダッシュ」なるゲームが流行ったことがあった。パッチョダッシュとは東京ガスのサイトで遊べるゲームのことで、「パッチョ」というクマのキャラクターがダッシュし、障害物をジャンプで避ける、といった内容だ。
きっかけは私がこのゲームを家族に勧めたことだったが、どういう経緯でサイトにたどり着いたのかは全く覚えていない。おそらくTwitterの広告に出てきたのだと思う。
このゲーム、作りはかなりシンプルであるものの、妙にクセになる魅力を持っている。操作は簡単なのにタイミングが意外と難しく、すぐにゲームオーバーになってしまうので、つい何度もやってしまう。
「これは楽しいぞ」
そう思った私は、家族のグループLINEにリンクを貼ってみることにした。きっとはまるのは私だけではないはずだ。
私の予想通り、妹と父から早速スコアの報告が送られてきた。その報告は何日か続き、トークルームを賑わせた。
家族の中で一番プレイが上手いのは妹だった。初回プレイから恐るべき高得点を叩き出し、その後も着々とスコアを上げていったのである。パッチョダッシュ界に彗星のごとく現れた期待の新人と呼んでも差し支えないと思う。
一方、父と私はいつも100点台止まりで、母に限っては「難しいよ〜」と5秒でゲームオーバーになってしまった。
数日間はお互いにスコアを報告し合っていた私たちだったが、パッチョダッシュブームはそう長くは続かなかった。
理由は明白だった。終わりが見えないのである。そもそもゲームクリアという概念があるのかどうかすら、誰にもわからなかった。パッチョダッシュマスターの妹ですら、クリア画面を目にすることはなかった。
一週間もすると、私たちはパッチョダッシュのことなど忘れ、まるで何事もなかったかのように日々は過ぎていった。
ところが、ブームが去ってからちょうど一年が経ったある日、私はふとパッチョダッシュのことを思い出したのである。
あのゲームはまだあるのだろうか?いやそもそもパッチョの特設サイトは残っているのか?アクセス数が少なくて閉鎖されてしまったのでは…?
私はドキドキしながら「パッチョダッシュ」と検索窓に打ち込んだ。
あった。
普通にあった。
パッチョダッシュは、インターネットの片隅にまだひっそりと存在していた。
私はなんだかパッチョダッシュに対して申し訳ない気持ちになった。いっときはあんなにおもしろがっていたのに、忘れてごめん、一人にさせてごめん。
私はもう一度、パッチョダッシュをプレイしてみた。やっぱり100点台止まりだった。
今更リンクを貼り付けたとして、家族の中でパッチョダッシュブームが訪れることはもうないだろう。それでも私は、あの数日間のことを思い出すと、懐かしく穏やかな気持ちになるのだ。
この一年で家族と過ごす時間が増えた人も多いかと思うが、こういうちょっとしたものが、家族関係を円滑にしてくれる場合がある。もちろんそうでもないこともある。
とにかくひとまずは、ぜひパッチョダッシュに挑戦してみてほしい。